当記事の3行まとめ
1. アジア富裕層が求めているのは、お金では買えない本物の体験と安心・安全
2. 桜・温泉といった日本の無形観光資産は、韓国・台湾のPRに置き換えられつつある
3. 訪日客1000万人時代でも、シンガポールやマレーシアの観光客受入規模には大きく劣る
前提:大前研一氏のビザ撤廃提案に、現地からも賛成
大前研一氏が「アジア富裕層はビザなし訪日可能にすべき」と提案する記事を読みました(出典:NEWSポストセブン 2014年7月15日)。
シンガポールを拠点に、ASEAN・台湾・香港の訪日観光PRに携わる立場から、現地の実感を踏まえてもこの提案に大いに賛成します。以下、その理由を3つの論点から整理します。
① アジア富裕層が求めているのは、お金では買えない本物の体験と安心・安全
アジア富裕層がいま求めているものを整理すると、次の5点に集約されます。
・日本ビザ申請手続きが面倒で、それだけで気持ちが遠のいている
・ASEANの人々が「世界で最も観光したい国」として挙げるのは日本である
・富裕層は高い質の体験・サービス・商品、そして安心と安全を求めている
・富裕層に響きやすい高価値で文化的な観光コンテンツを、日本は保有・開発している
・日本は観光コストが高い国だが、富裕層は「お金はいくらかかっても良いから貴重な体験を」という発想で動く
要するに、アジア富裕層は「お金では買えない体験」を求めているのです。韓国・台湾・タイよりも表現しにくく、再現性の低い貴重な体験を提供できるのはどこか。歴史が長く、独自の文化を蓄積してきた日本に、その優位性があります。
② 富裕層には精神的に豊かになる体験を——シンガポール富裕層と高知の網引き漁
先日、シンガポールの富裕層20人を高知の網引き漁に案内した際、現地で漁を一緒にした老夫婦から後日ビデオレターが届き、シンガポール側の富裕層は感激してさらに別の富裕層を連れて再訪した、という出来事がありました。
ここで強調しておきたいのは、シンガポールの富裕層と中国の新興富裕層の違いです。シンガポールの富裕層の多くは、4〜5代続く華人の名家であり、欧米の大学院を修了した教養ある文化人層です。彼らが反応するのは、ブランド消費ではなく、地域に根ざした人との交流や、その土地の暮らしに触れる体験です。
③ 桜や温泉といった日本の無形観光資産は、韓国・台湾のPRに置き換えられつつある
近年、韓国は桜を、台湾は温泉を、ASEAN市場向け広告の中核に据えてPRを展開しています。日本が長年保有してきた無形観光資産が、韓国のもの・台湾のものとしてASEANで認識され始めているのが現状です。
訪日外国人は2013年にようやく1000万人を超えましたが、人口約560万人のシンガポールには年間1500万人、人口約2800万人のマレーシアには年間2500万人の外国人観光客が訪れています。日本は受入規模で大きく差をつけられており、抜本的な制度改革なしには、世界的な観光誘致競争でさらに後れを取る局面に入っています。
まとめ
お金が全てを測る物差しではありません。しかし、親日で、教養があり、日本の文化・歴史・季節・地域差の機微まで理解できるASEAN富裕層に対しては、日本の門戸をより大きく開いて良いのではないでしょうか。
ビザの簡素化は単なる手続きの問題ではなく、日本がアジア富裕層に対してどのような姿勢を示すかというメッセージそのものです。観光立国を掲げるのであれば、ターゲット層の実態に合わせた制度設計が問われています。
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この記事の著者
高橋 学(たかはし まなぶ)
アジアクリック代表。タイ・バンコク在住。中国を含むアジアでの実務歴20年以上。日本語・英語・中国語・タイ語の4言語ビジネスレベル。東南アジア6カ国+インド+中国の現地ビジネス、訪日インバウンド、SNSマーケティングを専門とし、日本の自治体・観光団体・企業に対し、どの国に・どの順序で・どのように伝えるかの判断材料を提供している。
関連リンク
公式サイト:https://asiaclick.jp
note:https://note.com/aseanmana
お問い合わせ:info@asiaclick.jp
参考資料・関連情報
・日本政府観光局(JNTO)訪日外客統計:https://www.jnto.go.jp/statistics/data/visitors-statistics/
・日本貿易振興機構(JETRO)国・地域別情報:https://www.jetro.go.jp/world/
・シンガポール政府観光局(Singapore Tourism Board):https://www.stb.gov.sg/
・マレーシア観光局(Tourism Malaysia):https://www.tourism.gov.my/
・パシフィック・アジア観光協会(PATA):https://www.pata.org/
公開日:2014年7月16日
















