当記事の3行まとめ
- 中国とASEAN諸国は、市場特性・政府との関係性・対日感情のいずれにおいても大きく異なる
- ASEAN各国(タイ・マレーシア・シンガポール・インドネシア・ベトナム)はそれぞれ独自の市場特性を持つ
- 日本企業がアジア進出を検討する際は、各国の特性を比較した上で、自社に合う市場を選定することが重要
ここ10年間、中国・タイ・マレーシア・シンガポール・インドネシアといったアジア各国で実務に携わる機会を得てきました。最初の出会いは10年前、シンガポールとマレーシアでホームステイを経験したことです。当時は英語も初級レベルで、中国語に至ってはまったく話せず、市場の様子はおろか友人との会話も満足にできない状態でした。その後、中国大陸に2年間居住し、中国ビジネスから撤退するという貴重な経験も得ています。
現在はシンガポールと東京を拠点に、毎月ASEAN各国を回らせていただいています。本記事では、私の実務経験に基づくオリジナルな観点から、中国とASEAN諸国の市場の違いを整理します。一般に語られる内容とは異なる部分もあるかもしれませんが、現場で得た一つの実感として記録します。
① 中国市場の特徴——日本企業が勝ちにくい構造
- 政府によるコントロールが強く、中国側が有利になる仕組み・慣習が多い
- 文化大革命以降、不信感がベースにある市場で、金銭のやり取りや人間関係に注意が必要
- 大人口による激しい競争市場で、他者への配慮が後回しになりやすい
- 商談の各段階で利害調整・賄賂が発生する場面がある
- 歴史的経緯から、対日感情が複雑
日本の企業・団体は、現段階では他のアジア市場と比較した上で進出の是非を慎重に問うべきです。アジア最大の市場である以上、無視はできませんが、付き合い方を慎重に検討し、進出前に撤退判断基準を明確にしておくことが重要です。
② タイ(バンコク)市場の特徴——中間層拡大期、本物の日本製品に勝機
- 社会保障が国民皆制度ではなく、将来不安と男性の家族扶養の重圧がある
- 男女比が1:2に近づきつつあり、女性の社会進出が顕著
- 金銭欲と浪費癖の両方が見られる消費文化
- 仏教の庶民解釈に基づく、来世への期待感がある
- 文字を読み書きする習慣が比較的少なく、PRには写真と鋭いキャッチフレーズが重要
タイ市場では、楽しさ・心地よさを軸とした商品・サービスに勝機があります。平均所得の上昇と中間層の拡大によって、本物の日本製品への需要が顕在化しています。
③ マレーシア市場の特徴——15億人イスラム社会への入り口
- マレー系・華人・インド系の多民族国家
- ブミプトラ政策によるマレー系優位の体制と、それに対する各民族の反応
- 華人が経済の大部分を担うことによる構造的緊張
- マレーシア華人は6〜8言語を操る優秀な人材として、各国で獲得競争の対象に
- 世界で最も厳格な水準のハラル対応国の一つで、世界の22%・15億人のイスラム市場への入り口として機能
- イスラム圏を中心に、人口を上回る年間2,800万人の観光客が訪れる観光立国
ASEANでシンガポールを除き最も先進国に近いマレーシアですが、政治・民族感情・宗教を理解した上での市場開拓が必須です。世界のイスラム社会への入り口として、また優秀なマレーシア人材の獲得拠点としても活用価値があります。
④ シンガポール市場の特徴——プライド・価格・競争が「高い」ハブ市場
- シンガポール人と外国人専門家のポジション争い、外国人労働ビザの取得が困難化
- 住宅・自動車・生活費の高騰
- 富裕層と一般層の格差
- 英語偏重による精神的負担
- 中国大陸以外で成功した華人主導国家として、世界の華人層からの注目を集める
- 金融を中心に、東京以上にデータドリブンな社会システム
- 人口の約半数が外国人で、多様な民族・宗教が混在。見本市やASEAN進出時のテストマーケットとして有効
シンガポールは、情報と貿易のハブ(アジア本社機能)として活用するのが効果的です。税制面でも有利な条件が整っています。
⑤ インドネシア(ジャカルタ)市場の特徴——世界最大のイスラム系市場
- イスラム教の戒律は比較的緩やかで、状況によっては飲酒も可能なケースがある
- 約5割が中卒水準で、貧富の格差が拡大傾向
- 交通インフラには課題がある一方、通信インフラは充実、商圏設計に注意が必要
- 個人としては謙遜的だが、団体になると強気になる傾向、デモの発生にも注意
- 2030年までに中間富裕層が3倍に増加予測、人口世界第4位の巨大市場
- 2020年までに人口3億人、うち1.5億人が中間層に到達する見通し
他国とは異なるムスリム事情と、世界第4位の人口規模を持つ市場として、インドネシア人の生活向上に資する商品・サービスを投入することで、Win-Winの関係構築が可能です。
⑥ ベトナム市場の特徴——9,000万人市場、消費と生産の両面で魅力
- 領土問題を背景にした対中国感情。韓国はドラマ・K-POPの人気で歴史的経緯の影響が緩和されている
- ハノイ(官僚的・遠回し、北京に似る)とホーチミン(商業的・直接的、上海に似る)の地域差
- モバイル大国で、スマホの動画・SNS閲覧は月1,000円程度で使い放題、広告表現も豊富
- スターバックスやイオンが進出、中進国の罠から抜け出そうとしている段階。平均年齢24歳、9,000万人の市場は消費・生産の両面で魅力
若い労働力、大規模な人口、消費市場としての成長性を兼ね備えた、親日国マーケットです。
(参考)台湾市場の特徴——中華圏・ASEANに出る前の足がかり
- インドネシアと並ぶ親日国
- 中国大陸との関係性をめぐって意識が分かれる社会。若年層は「台湾人」、年配層は「中国人かつ台湾人」というアイデンティティの傾向
- 給与と不動産・物価の不均衡があり、若年層は上海など中国大陸に就職機会を求めるケースもある
- 中国大陸市場への深い理解を持つため、台湾パートナーと組んで大陸に挑むことで、チャイナリスクを大幅に軽減できる
- ASEAN進出前の海外市場経験・テスト・ステップアップの場として、台湾進出は有効な選択肢
信頼できる日本のビジネスパートナーとしての台湾は、対中国でも、東南アジア華人圏でも、ビジネス成功確率を高める存在です。
まとめ:中国とASEANの最大の違いは「市場との付き合い方」
同じアジアといっても、中国とASEAN諸国では事情が大きく異なります。最大の違いの一つは、対日感情の方向性です。
また、企業がどれだけ収益を上げてよいか、政府の介入がどこまで及ぶかという点でも差が大きく、共産主義圏や発展途上国では、企業が大きくなると行政が関与してくるケースもあります。事実、ASEAN諸国にも賄賂・政府介入・部分的な反日感情といった中国と類似のリスクは存在します。しかし、その頻度と、これまで積み上げられてきた信頼の蓄積に明確な差があります。
これら市場を比較検討した上で、ぜひご自身の足で現地に赴き、自身の目で確かめていただきたい——これが私の一貫した立場です。アジアクリックも、その判断材料を提供する役割を担っていきます。
この記事の著者
高橋 学(たかはし まなぶ)
アジアクリック代表。タイ・バンコク在住。中国を含むアジアでの実務歴20年以上。日本語・英語・中国語・タイ語の4言語ビジネスレベル。東南アジア6カ国+インド+中国の現地ビジネス、訪日インバウンド、SNSマーケティングを専門とし、日本の自治体・観光団体・企業に対し、どの国に・どの順序で・どのように伝えるかの判断材料を提供している。
関連リンク
公式サイト:https://asiaclick.jp
note:https://note.com/aseanmana
お問い合わせ:info@asiaclick.jp
参考資料・関連情報
- 日本貿易振興機構(JETRO)国・地域別情報:https://www.jetro.go.jp/world/
- 日本政府観光局(JNTO)訪日外客統計:https://www.jnto.go.jp/statistics/data/visitors-statistics/
- ASEAN事務局(ASEAN Secretariat):https://asean.org/
- パシフィック・アジア観光協会(PATA):https://www.pata.org/
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