当記事の3行まとめ
1. ASEANではスマホとチャットアプリが、家族・友人・仕事のコミュニケーション基盤になっている
2. GPS位置情報を使った周辺ユーザー検索やチェックイン文化が、生活にもビジネスにも組み込まれている
3. 日本側がアジア市場でPRをするなら、Push型ではなくPull型の位置情報戦略が有効
前提:ASEANはPCを飛び越えてスマートフォン中心で発展している
「アジアではスマホ」という認識が、もはや当たり前のものとして定着しつつあります。経済発展の著しいASEAN諸国では、消費者はPC普及の段階を飛び越えて、スマートフォン上で情報交換を完結させています。
バンコクでも、ホーチミンでも、ジャカルタでも、大都市の人々は日本人以上にスマートフォンから手を離しません。背景には、東南アジアの大家族主義と口コミ重視の文化があり、家族・友人とのつながりを保つツールとしてチャットアプリが日常に深く組み込まれています。
しかも、ASEANではチャットアプリの複数同時利用が標準です。Facebook Messenger、LINE、WhatsApp、WeChatあたりはどの国でも標準で、インドネシアではこれにBBMが加わり、ベトナムではWeChatの代わりにZaloが使われます。日本のように「LINE一本」という単一アプリ型の市場とは前提が異なります。
① 「周辺ユーザー検索」は標準機能——日本との文化的ギャップ
東南アジアのチャットアプリでは、自分の周囲数百メートル以内にいるユーザーを検索する機能が標準的に提供されています。日本ではプライバシー・安全性の観点からこの機能が制限されている一方で、ASEAN市場では「自分の居場所を知人・友人とのやりとりに楽しんで使う」文化が定着しています。
日本人にとっては抵抗感のある「居場所の共有」が、東南アジアでは関係性を深める手段として機能しているという違いを、まず前提として押さえる必要があります。
② 「チェックイン」自体がコミュニケーション——ミャンマー・ヤンゴンの事例
ネット接続速度が遅いミャンマー・ヤンゴンの20〜30代ホワイトカラー層では、写真投稿が技術的に難しいため、レストランやランドマークへの「チェックイン」が日常のコミュニケーションの中心になっています。
「今どこにいるか」を投稿することで近況を共有し、その場所自体への評価も広がっていきます。これは個人の生活共有にとどまらず、店舗の評価が口コミとして拡散するビジネス情報の生成プロセスでもあります。インフラ制約の中で発達した独自のコミュニケーション様式と言えます。
③ 周辺の見込み客への営業ツールに——カンボジアの事例
位置情報をビジネスに応用している事例も、ASEANでは草の根レベルで観察できます。
私自身がカンボジアでホテル滞在中に、トゥクトゥク(3輪バイク)のドライバーから営業メッセージを受け取ったことがあります。彼は私が半径100メートル以内にいることをチャットアプリで把握した上で、アンコールワット周辺の観光地の写真を送り、音声メッセージで魅力を伝えながら営業をかけてきました。
1日の売上が1000円程度の零細個人事業主にとってさえ、スマートフォンとGPS位置情報付きチャットアプリは仕事獲得の武器になっています。バンコクのスクンビットでも、近くにいる人から接触メッセージが届く事例があります(性産業従事者からの営業を含む)。位置情報マーケティングは、ASEANではすでに生活レベルで実装されているのです。
④ ビジネスへの応用——Pull型で「今」役立つ情報を届ける
これだけ普及している位置情報機能を、企業や観光地が活用するための4つのポイントを整理します。
・FacebookページやGoogleマップ上で位置情報をオンにし、消費者がチェックインできる状態を整備する
・国とターゲット層に応じてチャットアプリを使い分ける(インドネシアならBBM、ベトナムならZaloなど)
・Push型のPRではなく、周囲の消費者側からアプローチを引き出すPull型設計に切り替える
・「今立ち寄りたくなる情報」「今すぐ使えるクーポン」など、即時性の高いコンテンツを用意する
自分のFacebookページのチェックイン数と評価の星数を確認するところから始めるのが現実的な第一歩です。
まとめ
ASEAN市場における位置情報コミュニケーションは、日常会話から個人事業者の営業活動まで、すでに生活インフラとして根づいています。日本国内の店舗や観光地のPRにも応用できる発想であり、東南アジア向けPR戦略を組む際には、チャットアプリの位置情報を前提とした設計に切り替えることが、現地の消費者行動と噛み合う近道になります。
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この記事の著者
高橋 学(たかはし まなぶ)
アジアクリック代表。タイ・バンコク在住。中国を含むアジアでの実務歴20年以上。日本語・英語・中国語・タイ語の4言語ビジネスレベル。東南アジア6カ国+インド+中国の現地ビジネス、訪日インバウンド、SNSマーケティングを専門とし、日本の自治体・観光団体・企業に対し、どの国に・どの順序で・どのように伝えるかの判断材料を提供している。
関連リンク
公式サイト:https://asiaclick.jp
note:https://note.com/aseanmana
お問い合わせ:info@asiaclick.jp
参考資料・関連情報
・日本貿易振興機構(JETRO)国・地域別情報:https://www.jetro.go.jp/world/
・日本政府観光局(JNTO)訪日外客統計:https://www.jnto.go.jp/statistics/data/visitors-statistics/
・パシフィック・アジア観光協会(PATA):https://www.pata.org/
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