当記事の3行まとめ
- マレーシアでは華人が人口の約3割で経済の約7割を握っており、政治はマレー系・経済は華人という構造が形成されている
- 1969年の暴動を契機に「ブミプトラ政策」が制定され、マレー系優位の体制が制度化された
- マレーシアビジネスは、各民族の立場・苦しみ・プライドを理解することから始まる
本記事のテーマは「マレーシア華人」です。先日のブログでは、華僑・華人が東南アジア各国で一定の経済的地位を持っていることに触れました。今回は、東南アジアビジネスで避けて通れない、マレー半島の華人ネットワークについて、歴史を通じて掘り下げて整理します。
前提:マレーシア華人の語学力と経済力
私自身、マレーシア・シンガポールで華人の人々と交流し、日本国内でも複数のマレーシア華人と関わる機会があるのですが、彼らの多言語対応力(英語・中国語・マレー語・現地方言)には毎回驚かされます。
マレー半島には、シンガポール人、シンガポール人となったマレーシア華人、マレーシアの華人など、複層的な背景を持つ人々が暮らしています。経済面では、シンガポール人の8割が華人、マレーシアでは人口の3割が華人で経済の約7割を握っているとされます。
日本はマレーシアにとって米国に次ぐ第二の投資国であり、進出している日系企業は約1,400社。ダイソー、ユニクロ、伊勢丹、無印良品などの日本ブランドは、マレーシアの生活に深く溶け込んでいます。
しかし、中国大陸に格差社会・超資本主義の課題があるように、マレー半島にも長い歴史を背景にした民族間の構造的問題があります。
① マレー半島の華人コミュニティの形成史
かつてイギリス領であった現シンガポールを含むマレー半島では、19世紀前半にマラッカを中心とした英式教育を受けたコミュニティと、19世紀後半に中国南部(福建、客家、広東、潮州、海南など)から移住してきた中国系の人々が、それぞれのコミュニティを形成しました。これらの集団は、現在に至るまで地方の伝統や方言を維持しています。
20世紀前半の中華ナショナリズム、そして中華民国による北京語(標準語)教育を経て、これまで個別に存在していた中国系の意識がアジア全体で共有されるようになりました。
しかし、第二次世界大戦後に中華人民共和国が成立すると、海外の華僑は現地への永住を余儀なくされ、中国人意識を薄めながら現地化し「華人」として生活するようになります。
② ブミプトラ政策と1969年の暴動
マレーシアでは、人口の3割が華人でありながら、公用語はマレー語と定められました。平等な市民権に反対したマレー系への配慮として、イギリス支配下で確立された「マレー系の優位」が独立後も維持されました。農業中心のマレー系に対し、錫加工などで経済力を蓄えた華人との間で、経済格差が拡大していきます。
1963年にマラヤ連邦が成立しますが、わずか2年後には華人とマレー系の対立を背景にシンガポールが分離独立します。1969年、公用語をマレー語とすることに異を唱える華人と、経済格差に不満を抱えるマレー系の間で、死者196人を出す暴動「5月13日事件(ティガブラス・メイ)」が発生しました。
これを契機に、マレーシアの国策はマレー系を優位とする「ブミプトラ政策」によって制度化され、マレー系優位の議論自体が法律で禁止されました。イスラム教が公的に正当とされ、中国・華人文化は外国文化と同等の扱いを受けることとなります。
③ 経済格差と「政治はマレー系、経済は華人」の構造
ブミプトラ政策によって、華人は華人経済圏の中で活動せざるを得ず、仮にイスラム教に改宗しても華人より下位に位置づけられる構造になっています。一方、マレー系は土地や建物の売買、公務員採用、大学入試、主要産業において優先・保護され、人口の約6割という規模と相まって、政治面で圧倒的な力を持つに至りました。
2011年9月の収入格差を見ると、華人が4,437リンギット、インド系が3,456リンギット、マレー系が2,711リンギットとなっており、「政治はマレー系、経済は華人」という構造の影響が明確に残っています。
マレーシア華人の友人がかつて、「マレーシアでは、華人の立場はないから」とつぶやいたことを思い出します。経済力があっても、政治的・制度的な立場の弱さが、彼らの内面に大きな影を落としているのが現実です。
④ 「1(One)マレーシア」と多民族国家としての挑戦
現政府は、多民族性を国の原動力とする「1(One)マレーシア」のスローガンを掲げ、農産物・鉱産物の輸出と観光業に依存した体質からの脱却を図っています。2020年に先進国入りすることを目標とした「ワワサン2020(ワワサンはマレー語でvisionの意)」を国家ビジョンとして掲げる「東南アジアの優等生」マレーシア。
多民族それぞれの立場・苦しみ・プライドを理解することから、マレー半島とのビジネスのすべてが始まります。表面的な経済データだけでは、この市場の本質を捉えることはできません。
まとめ
マレーシアは「東南アジアの優等生」と呼ばれる一方で、ブミプトラ政策に象徴される構造的な民族間問題を抱えています。マレーシアビジネスを成功させるには、各民族の歴史的経緯と現在の立場を理解した上で、相手のプライドと尊厳に配慮した接し方を組み立てることが不可欠です。
参考文献:太田竜一『東南アジアの華僑・華人——マレーシア、シンガポールにおける言語問題』
この記事の著者
高橋 学(たかはし まなぶ)
アジアクリック代表。タイ・バンコク在住。中国を含むアジアでの実務歴20年以上。日本語・英語・中国語・タイ語の4言語ビジネスレベル。東南アジア6カ国+インド+中国の現地ビジネス、訪日インバウンド、SNSマーケティングを専門とし、日本の自治体・観光団体・企業に対し、どの国に・どの順序で・どのように伝えるかの判断材料を提供している。
関連リンク
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参考資料・関連情報
- 日本貿易振興機構(JETRO)マレーシア国情報:https://www.jetro.go.jp/world/asia/my/
- 在マレーシア日本国大使館:https://www.my.emb-japan.go.jp/
- マレーシア観光局(Tourism Malaysia):https://www.tourism.gov.my/
- パシフィック・アジア観光協会(PATA):https://www.pata.org/
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